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第四章 天女、翻弄 + 1 +

last update 최신 업데이트: 2025-06-02 06:33:19

 女学校での授業は講義と実習が半々くらいであった。

 曜日によっては刺繍だけの日や授業が休みになる日もあるため比較的自由に過ごせる時間が多い。だが、華族令嬢が花嫁修業のために通うのが前提の学校なので礼儀作法や家庭科などは必修とされている。

 桜桃は初めての授業で手渡された手巾に慣れた手つきで刺繍を施していく。隣の席にいる小環は何度も指に針を刺して顔を顰めながらも桜桃に負けるものかと必死の形相で針を動かしていた。

「算術なら負けないのに……」

「商人に嫁がれる方は算術も選択できるみたいだけど、あたしは受けないよ」

 数字なんてわけがわからないもの、と言いながら幾何学模様を生み出していく桜桃を見て小環も頷く。

「必修科目だけでいい。目立つ行為はするな」

「わかってますって」

 ほんとうにわかっているんだろうかと疑問に思いながらも小環は彼女から目を離すことなく周囲を見渡す。自分たちに注がれていた視線を見返すと、清楚な風貌の少女が微笑み返してきた。たしか彼女の名は清華五公家に入っていた……

「小環? 手が止まってるよ」

「うるさい。いま考えごとしてたの」

「考えごとしている方がこういう作業ははかどると思うんだけどなあ」

 桜桃が自分の作業に戻ったのを見て、改めて彼女を探す。まだ見ている。そうだ、藤諏訪の人間だ。彼女もまた、桜桃を監視する立場に違いない。隣室の黒多桂也乃と違い、接触する気はなさそうだが……

「放っておいていいか」

「何が?」

 気づけば桜桃の手巾には華やかな星型の花の刺繍ができあがっていた。

「……躑躅花(つつじはな)か」

「うん。こっちでは躑躅はおろか桜もまだ咲いてもいないんだね」

「そうだな」

 帝都では桜が満開になり、躑躅も咲きはじめているというのに、この地では未だ、蕾が膨らむ気配もなく、どんよりとした空の下で冬と変わらぬ寒さが続いていた。

 桜桃との共同生活はそれほど大変ではない。部屋が同じとはいえ、寝台は別々で衝立が常備されていたし、身体を拭くことの
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  • 此華天女   第七章 天女、降臨 + 6 +

     鋭く瞳を煌めかせ、雁は己に封じられた真のちからを発揮させる。まるで兎を罠へ追い詰める猟犬のように、慈雨を狙って氷雪の檻を編み出し、これ以上手だしできないよう種光とともに閉じ込めてしまった。「この程度のもの、すぐ壊してやる……っ!」 冷たい檻に囚われた慈雨と種光は抜けだそうと試みるが、『雪』に対抗できる強大なちからを持たないふたりは分厚く透明な氷の壁に阻まれたまま四苦八苦している。 慈雨たちが氷雪の檻から抜け出す前に、桜桃の暗示を解かなくてはならない。雁は声を荒げて桜桃と対峙している小環に向かって叫ぶ。「――篁さん、早く!」「……Nennamora teeta rehe tane rehe erampeuteka」 小環の唱える声が、上空で蝶のようにひらひらと飛びながら氷の矢を放っていた桜桃の動きを制止させる。「その名を呼んでいいのは僕だけだ! お前などに彼女を呼ぶ資格はない!」 宙でぴたりと止まった桜桃に、柚葉がなおも声をかけるが、額に星の花を咲かせた天女の耳には届いていない。「〈昔の名と今の名を〉――ノチュウノカたる始祖神の末裔オダマキが命ずる。天空の至高神の加護持つカシケキクの者よ、縛られしふたつ名をその身より解き放て!」 界夢の地から去る際に、逆さ斎が教えてくれた、桜桃のなかに潜む天女のちからを呼び出す、ふたつ名を心に浮かべ、小環は強く念じる。 ――咲良のちからを持つ桜桃、俺に応えろ! ぴたりと止まっていた桜桃の白い西洋服の裾が、風に揺らめく。いまは亡き『風』の部族、レラ・ノイミが小環に味方したかのように、あたたかく、心地よい風が、カイムの地をサァアアアアアッと通り過ぎていく。 そして、冴え冴えとした冬の蒼穹は黄金色に煌めく太陽によって淡く白く塗りつぶされ、やわらかい水色の空へと変わっていく。 額に星の花を咲かせた天女の瞳の色も、優しい榛色……いつもの桜桃の虹彩に戻っていた。そして、桜桃に導かれるように小環の身体が浮かび上がる。

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    「ゆずは――空我柚葉が、伊妻が崇める『雷』の王だったんだな」 小環の悔しそうな視線に気づいたのか、慈雨が笑顔で歩み寄ってくる。「あら、狩さん。誇り高き神嫁として嫁がれたのではなかったかしら?」「おあいにくさま。あなたにかけられた暗示なら、ここにいる始祖神の末裔に解いてもらいましたわ」 だからもう慈雨の暗示にはかからないのだときっぱり言い切り、雁は慈雨の瞳をきつく睨み返す。「そう。残念ね。でもいいわ、あなたよりももっと素敵な玩具を見つけたから。ねえ、小環さん。まずはあなた、遊んでくれない?」 くすくす笑いながら慈雨は雁から視線をそむけ、小環を挑発する。「遊ぶだと?」「そう。春を呼ぶ遊び。天女には羽衣が必要でしょう? 我らが『雷』の王とあなた、どちらが天女に選ばれし者なのか。そしてどちらが滅ぶべき者なのか……ねえ。此の世に栄華をもたらす天女に殺されてみない?」 その言葉が終わるのと同時に、柚葉が桜桃の耳底に甘い囁きを落とし、天女のちからを覚醒させる。「桜桃?」 純白の西洋服をひらひらと蝶のようにはためかせながら、星の花を額に咲かせた桜桃は柚葉の腕から羽化し、天高く舞い上がる。 ふだんの灰色がかった榛色の瞳は、神聖さと禍々しさを共にした濃紫色に染まり、無感情のまま小環たちを見下ろしている。「皇一族の第二皇子。あなたの存在は我らの野望の障害となる。いまここで、天女によって命を散らすがよい!」 昂揚した声をあげるのは慈雨の養父である梧種光。彼自身、天女のちからの偉大さを目の当たりにして感動でその場に立ちつくしているようだ。小環は彼の言葉を無視し、柚葉によって天女のちからを解放した桜桃に向けて声を荒げる。「桜桃! 俺がわからないのか! 春を一緒に呼ぶのは俺だって言ってただろ?」「この男の言葉に騙されちゃ駄目だよ。信じていいのは僕の言葉だけ。春を呼ぶのに邪魔な彼は、殺してしまいなさい」 ぞっとするほど柔らかい声音。桜桃は柚葉の声に反応して従順する。素直に彼女はカイムの

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       * * * 「気がついた?」 「四季さん? なんで、ここに?」 桜桃は四季の腕に抱きかかえられたまま、ぱちくりと瞬きをする。自分はなぜこんなところにいるのだろう。たしか、小環と寒河江雁の暗示を解いて、危機に瀕している桂也乃の元へ向かっていたはずだ。「……でも、途中でおおきな地震が起こって」 「神々がふだんは隠している界夢の扉を開いたのさ」 「カイムの扉?」 まっさらな地面に下ろされた桜桃は四季の言葉に首を傾げる。「神謡に詠われている約束の地。北海大陸で寿命を迎えた魂が舞い戻り、新たな生命の息吹のために歯車を回す場所」 四季の言葉は抽象的でよくわからないが、桜桃はうん、と頷いて全体を見渡す。  空は青く、陸は白く、どこまでもどこまでもつづいている。白いのは雪かと思いきや、小さな白詰草の群生だった。桜桃は自分が初めて北海大陸で見た夢のなかの世界だと理解し、四季に向き直る。「扉が開くとき、神々は新たな天女の降臨を真に望む。さくら、君は選ばれた。カイムの地に春を呼ぶ天女として、神々は君の存在を受け入れたんだ」 四季は桜桃の額へ手を翳し、一瞬で星型の花の印を刻んだ。音もなく額から淡い薄桃色のひかりが芽生える。桜桃の身体が熱を持ち、彼女が立っていた足元には、白以外の、赤や黄色の色彩の花がゆっくりと空へ向かって開きはじめている。「ちょ、ちょっと待って。四季さん、言ってることがよくわからな」 「時間がない」 桜桃の戸惑いを遮り、四季はきっぱりと告げる。四季は識、になっている。桜桃は黙り込み、四季の言葉に耳を傾ける。「羽衣の役割を担う彼にも伝えてほしい。神謡から、きみたちが成すべきことはわかっているだろうから」 「小環はここには来ないの?」 「いや、君を追って来てはいるが……辿りつけるかはわからないからな」 「どういうこと? 界夢って一か所じゃないの?」 「同じとは限らないよ。神々が管理するこの箱庭はときどき時空の歪みを生むし、誤って海や川に落ちればそのまま循環の輪のなかへ

  • 此華天女   第七章 天女、降臨 + 1 +

     どこまでもつづく青い、蒼い、碧い世界。  白雲の向こうに佇むのは、湖水だろうか天空だろうか。小環は奇妙な浮遊感に身を委ねたまま四季たちの場所へ急ぐ。  ときどきすれ違うのは懐かしいひとたち。小環の母、蛍子は少女のような笑みを浮かべて彼を見送ってくれる。異母兄の湾の生母、篁八重がカイムの古語を口ずさんでいる姿も見える。ここは死後の世界なのだろうか。だとしたら、小環に呼びかけてくれた巫女装束の女性はきっと、桜桃の母、セツなのだろう。〈天と地を結ぶ始祖神の末裔(すえ)よ、至高神に愛されし娘を娶りて春の栄華を咲かすのじゃ〉 しゃらん、と錫杖が鳴り響き、小環の視界が反転する。あおかった世界に藍色が重なり、一瞬で色彩が奪われる。  目の前が白と黒に、占領された。「死んでまであたくしの邪魔をするなんて、愚かな女」 銀白のような髪を腰まで垂らし、緋袴に純白の袿を纏う女性の姿もまた、変貌を遂げていた。  あおい世界はしろい世界へ。まるで、冬の最中の雪原のような寒々しさ。そこに降り立っていたのは、見知った少女。「……梧」 黒く見えたのは濃紺のボレロだった。慈雨は小環を見つけるとにやりと嗤う。  突然現れた慈雨に、小環は驚きを隠せない。「いま、春を呼んでもらっては困るのよ。ようやく皇一族の人間をひとり、葬れたっていうのに」 「彼女をどうした」 「刺しただけよ? すぐに死んだらつまらないからあえて急所は外したけど、もう助からないでしょうね。ほら見て? あそこにいるじゃない」 慈雨が指で示した先には、淡い撫子色の西洋服を纏った桂也乃の姿があった。まるで異国の結婚装束のようにも見える。けれど、愛らしい花のような装いをしている彼女の表情は、能面のようにまっさらで、小環の知る彼女ではない。「おい、黒多! こんなところで何やってるんだよ? 戻って来い!」 小環の声は桂也乃に届かず、桂也乃の姿は煙のように消えてしまう。「無駄よ。カイムの術者でも戻るのが難しいこの界夢に彷

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